先生が紹介してくださった狼に関する文学作品は、「野性」をロマンティシズムの空想の世界にしてしまっただけではないでしょうか。地上に野生の大型哺乳類がほとんどいなくなってしまったら、人間と動物との関係はどのように変化してゆくのか、気になります。

ロンドンやシートンの作品は、ロマンティシズムでは括れないリアリティを持っていると考えています。双方とも、ゴールドラッシュに沸くアラスカで起きた自然と人間との戦い、ニューメキシコにおける牧場主と狼との戦いを前提にしているからです。まったく牧歌的、理想主義的な面はなく、強烈なリアリズムが貫かれています。まあ、原作を一度読んでみてください。なお、それとは別に、野性のロマン化の問題はご指摘のとおりでしょう。現実の恐ろしさを把握せず、憧憬のみが募ってゆくことになります。上の質問とも関連しますが、最近、一部の日本人研究者によって、列島に狼を放とうという計画が持ち上がっています。生態系における狼の役割によって、鹿や猪が淘汰され、農害が減るだろうという考えです。これなど、まさにロマンティシズムの極致でしょうね。