桃太郎以外の昔話にも、環境史と関わるような内容のものはあるのでしょうか?

非常にたくさんありますね。ぼくが一時期集中して研究していたのは、樹木が人間に伐られることに抵抗するという伐採抵抗伝承、樹木の精霊と人間とが結婚するという樹霊婚姻譚などですね。ほとんど追跡している学者がいないので、最近ではぼくの学説が海外でも紹介されています(Haruo Shirane, "Japan and the Culture of the Four Seasons", Columbia University Press, 2012, pp. 128-129.)。樹霊婚姻譚などは、一見すると樹木と人間とを同列にみるアニミズム的感覚に溢れているようですが、面白いことに、これが爆発的に語られ出すのは、列島の歴史のうち樹木が最も伐採され、少なくなっていたと想定される中世後期〜近世初期なのです。樹霊が人間にとって婚姻の対象になったということは、ある意味でそれに対する恐怖感、畏怖の感覚が希薄になり、身近な存在になったのだともいえます。『もののけ姫』でシシ神の森がなくなってしまったように、人間が自然をある程度コントロールできる、という実感のなかから生まれてきた物語なのかもしれません。