浦島太郎の原話には3つあると仰っていましたが、どうして違う書物なのに同じような話が記述されているのでしょう。また、概説では桃太郎の話をしたと仰っていましたが、どのようなお話をされたのですか。

授業ではプリントに載せた『日本書紀』の文しか扱いませんでしたが、そこにある「別巻」が、最も詳しい『丹後国風土記逸文(微細な部分に相違はあるものの、昔話の浦島太郎に近い内容)に当たるものと考えられています。伊余部馬飼という人物が丹後国守であった際、同伝承を記録したと伝えられていますが、彼の学識や文学趣味に沿って考えてゆくと、ある程度の文飾(中国化)がなされたことも否定できません。少々後の時期、やはり常陸国守として『常陸国風土記』の仕上げを担った藤原宇合は、伊余部馬飼と同じく『懐風藻』に多くの漢詩を載せる教養人ですが、常陸国を神仙境と荘厳するような文飾を行ったことが分かっています。『万葉集』の方は、巻9に高橋虫麻呂の歌としてあらすじが詠まれていますが、当時の知識人の間で同伝承が著名であったことを示しているのでしょう。高橋氏はもともと供御(大王の食事を準備する)の一族なので、海や山へのネットワークがあり、その関係から浦嶋子の伝承を知っていたものとも考えられます。