明治以降、キリスト教的な「人間が自然を征服する」という価値観のせいで環境破壊が進んだという説がありますが、先生はどう思われますか? / 北條先生の授業は環境と結びつけた説明が多い気がしますが、それは先生のご専門だからでしょうか?

キリスト教による環境破壊説を主張したのは、1960年代のリン・ホワイトが最初ですが、彼の指摘は正しい部分も、またそうでない部分もあります。キリスト教アニミズムを破壊し、環境破壊の一要因を作ったのは確かですが、例えば神によって自然の支配を許可されたという「創世記」の考えも、現在では「人間は神が委託されたままに、自然を保持する責任がある」との見方に変わってきています。要は宗教や思想それ自体に問題があるのではなく、それを駆使して自らの行為を正当化してゆく時代・社会のあり方にこそ注意が必要なのです。この講義の冒頭でもお話ししたように、江戸期の日本は現在よりも森林面積が少なく、神社の鎮守の森でさえ伐採し、土地の水田化や樹木の建材化を推進していたことが分かっていますし、古代の段階で自然を象徴する神々を人間が殺害し、開発を達成するという神話や伝承が語られています。明治以降のキリスト教云々は、明らかに間違った見解なのです。なお、この講義で環境を重視する理由も、初回あたりでお話ししたかと思います。必ずしも自分の専門だからというわけではなく、自然環境を捨象した歴史学のあり方では、過去の実相をしっかり把握できないとも思うからです。