自然環境との関連、植生の類似が文化の類似を生み出してゆくというのは想像できますが、例えば今日のお話にあったように、人間の邪魔をしに出てくる神が「蛇」であるというような、登場人物が一致してくるという事態は、伝播以外が原因の神話の類似ではよくあることなのでしょうか。

「蛇」は説明しやすいですね。蛇は、その脱皮をするという性質や低湿地に棲息するという生態から、前近代社会においては多く〈不老不死〉や〈死と再生〉の象徴、あるいは水の神などと捉えられています。とくに前者の性格は重要で、神話的世界においては、多く人間に知恵を授けるもの、あるいは人間に授けられるべき知恵を横取りする存在として、畏怖/尊崇/憎悪の入り混じった心情で語られる両義的存在になってゆくのです。現存世界最古の神話であるメソポタミアギルガメシュ神話では、蛇は、やはり〈死と再生〉の象徴である月からギルガメシュに授けられるべき不老不死を、横取りするものとして語られます。これは、蛇の〈死と再生〉を説明する起源神話にもなっています。『旧約聖書』でイヴに知恵の実を食べさせ楽園追放の原因を作る蛇は、このヴァリアントです。授業の喩えに使った聖ヒラリウス伝の蛇は、この〈死と再生〉の性質、水域の性質を併せ持った位置づけになっています。『常陸国風土記』行方郡条の夜刀神も同様ですね。このように、その生態から神話的世界観の特別な場所を占める存在は、隔絶した地域においても同様の役割を果たす動植物として登場することが多いですね。