ヨーロッパの動物供犠では、捧げられるのは豚や山羊なのですが、鶏は主にアジアで用いられているのですか。地域によって、捧げられる動物も違ってくるのでしょうか。

供犠される動物の種類は、もちろん地域、時代によって異なっています。中国の場合では、牛・羊・豚は家畜であり、牧畜文化において、人の作ったものを神に捧げるという思想が根底にあるものと思います。ぼくが調査に参加した雲南省少数民族納西族においても、自然神は自然を司っているのだから、狩猟によって得た動物を捧げてはならない、人間の領域において育てた家畜を捧げなければならない、との論理が働いていました。一方狩猟文化のなかにでは、獲物自体が神から与えられたものであり、その一部を返却して謝礼とする、という論理で供犠がなされます。単線的に整理してよいかどうか別として、歴史的には、狩猟の獲物→家畜という変遷があると考えてよいでしょう。鶏はやはり家畜ですが、朝を呼ぶ動物として特別な聖性が付与されています。中国の四川省で発掘された殷周期の三星堆遺跡では、太陽がその枝から天空へ登ってゆく扶桑(もしくは建木、若木)の青銅製品がみつかっていますが、そこにも鶏が造形されていました。日本では、いわゆる『古事記』『日本書紀』の神話においてアマテラスが岩戸に隠れ、世界が闇に閉ざされたとき、それを開くために雄叫びを上げる「常世の長鳴き鳥」として登場します。