『千と千尋の神隠し』の最後で、ハクが千尋に「ふりかえってはいけない」と言うのは、黄泉津比良坂の話をしているのだと聞きました。本当でしょうか?

千尋の訪れた世界が霊界として表象されていることは確かですが、「振り返ってはいけない」に黄泉津比良坂をみるのは少し穿ちすぎでしょうね。「振り返ってはいけない」も〈見るなの禁〉の常套句のひとつで、『旧約聖書』創世記のソドムとゴモラの話や、ギリシャオルフェウス神話にもみることができます。黄泉国神話と同じで、たいてい、〈見る〉というタブーの侵犯によって、悲劇が訪れる展開となります。『千と千尋』の場合にもそれが読み込まれているとみることも可能ですが、タブーという行為の禁止よりも、前を向いて自分の生きる現実に誠実に向き合えという、肯定的な促しの印象が強いですね。