水が死者の世界と通じているというお話でしたが、そういう場所を特別視するのはどうしてですか? / 水と死者との関係という点で、三途の川も水です。あの世とこの世の境界に水があるというのも、やはりそうした思想に基づいているのでしょうか。

このあたりは、解釈論にならざるをえませんが、ぼくは水が世界の根源であるとの発想が関わっていると思います。中国江南地方には、戦国時代の段階で、天地が開闢する以前に世界は水に満たされていた、との神話的思考が存在したことが確認されています。あらゆるものが水から生まれたのならば、生命は死ぬと水に帰るのではないか。エリアーデなどのところで触れた根源回帰の思想ですね。アジアの神話や祭儀などを分析してゆくと、そこには、人間は死後に魂の原郷へ戻ってゆくとする考え方が見受けられますが、それは水の世界なのかもしれません。三途の川は、死者の世界そのものというより、あの世/この世の境界という面が強いですが、その概念が成立したのは中国なので、死者=水との関わりが反映している可能性は考えられます。