口頭伝承が残っているのは、民族・部族単位のものが多いのでしょうか。また、口頭伝承は、その地域共通のコモンセンス、暗黙の了解などとして、語り継がれるというより元から知られているものなのでしょうか。

必ずしも部族、民族単位とは限りません。その伝承自体が、いかなる空間をフィールドとして、どのような機能を担っているかにより、それぞれ性格が変わってきます。例えば、同じAという村に伝わっている伝承でも、村全体に共有される、例えば村の掟の起源や村の始まりについて語る伝承、村を構成する各部族に伝わる、部族の始祖やお互いの部族との関係を語る伝承、部族内の家々に語り継がれる伝承など、さまざまな重複/非重複の情況がありうるわけです。また、コモンセンスなのか暗黙の了解なのかですが、いずれの場合も、「口頭伝承」が存在しなければ知識として伝わりません。伝承は必ずしも物語的なもののみを意味するのではなく、親から子へ伝えられるような日常生活上の知識、職業技術の伝達に関連するわざ言語など、人から人へ伝えられるもの全般が「伝承」のカテゴリーに入ります。よって、「伝承」されずに「元から知られている」ものなど存在しないわけです。