言説形式の伝播とは、具体的にはどのような手段、方法によって可能となるのですか。

書承と口承ですが、後者にはさまざまなパターンがあります。社会情況に支えられた噂のように広汎に伝播するもの、ひとつの共同体のなかだけで完結して伝承されるもの。伝説の場合は、その土地、もしくはランドマーク的な施設に関して語られることが多いので、それらに接触した人々が語り伝えてゆくことになるでしょう。とくに講義で扱った兄妹婚姻型洪水伝承の場合は、世界の再生者=始祖神を祀る祠廟の存在が大きい。地域の祠廟は交通を守護する場合が多いので、商人その他の行路者が旅の安全を願って参詣してゆく。これらの人々が祠廟の縁起を聞き、故郷へ運搬して流通させるというパターンが主要なものでしょう。その過程において何らかの形で成文化されれば、より広汎な地域へ波及してゆく可能性が生じます。