なぜ聖徳太子を創り出す必要があったのだろうか。 

これについては、さまざまな考え方がありうるでしょう。授業で扱ったのは、クーデターにより蘇我氏首班政権から政治の実権・仏法興隆権を奪った改新政府を、正当化するためであったという考え方です。そのために蘇我氏を専横の氏族として貶め、推古朝に政治・宗教における聖人であった太子を描き、太子の政治=王族の政治に復帰するという構図を創り出したかったのでしょう。また太子の創建伝承を持つ寺院群では、中世に至る寺院どうしの競合のなかで、自らの地位を卓越化し多くの弟子・檀越を得るため、『書紀』の描く歴史に寄りかかりつつ、一層太子の神格化を進めてゆくことになるのです。