日本の天皇は古代において、権力はなかったのですか。なぜ天皇が必要だったのでしょうか。後の幕府は、なぜ天皇を廃止しなかったのですか。 / 天皇制が長く続いている要因とは何ですか。

講義でお話ししているとおり、権力がないわけではありませんでした。しかしそれは王権を形成する豪族たちの合意によって保障されていましたので、合議の調整・総括に限定されていたというべきでしょう。しかし、古代を通じて天皇のみが執行できる祭祀・儀礼が存在しましたので、王権や国家が神祇による保障を受けるうえでは、その媒介者として需要があったということになります。幕府は、以前にも府官制との関係でお話をしたように、そもそもの将軍職に任じる上級権威が必要とされます。そうした上級権威が動揺することは歴史上何度かあったはずで、例えば江戸幕府の時代においては、将軍職が安定し天皇と同種の祭儀も行うようになってゆくと、事実上天皇は必要とされなくなったともいえるでしょう。制度としては現在まで続く天皇制ですが、それが実態としては存在しないも同然であった時期はあったと考えられます。