日本には多くの火山があり、地震も頻発していますが、それによる都市崩壊の伝承は残っていないのでしょうか。残っていないとすれば、やはり水の神聖性が重要な意味を持っているのでしょうか。

実はやはり、噴火によって都邑が潰滅するという伝承はあまりみられないのです。地震については、授業で扱った『今昔物語集』の記述も地震の色彩が濃いですし、別府の瓜生島や徳島の御瓶千軒なども地震による水没で、多少は確認することができます。しかし、言説形式としては都邑水没譚ですし、水に関わるものが圧倒的に多い。噴火については、これだけ火山がありながら神話もあまり多くありません。益田勝実氏や保立道久氏は、日本神話に隠された「火山性」を明らかにしようとしていますが(イザナミは大地母神であり、火の神カグツチを生んで亡くなったのは噴火を表現している等々)、そもそもなぜ暗示される形になっているのかが分からない。やはり日本列島に暮らしてきた人々の心性には、火山よりも水が大きな影響を与えているように思います。