江戸時代以前には、「国史」「日本史」といった概念があったのでしょうか。

8世紀に編纂されたわが国最初の正史『日本書紀』自体が、「日本」そして「国史」との体裁をすでに示しています。これは、中国王朝の統率のもとにあった東アジア世界において、唐や新羅などに匹敵する自国の歴史を示すために書かれたものです。それまで「倭」と呼ばれていた日本が、新たな国号「日本」を冠している点でも注意されます。また、8世紀末〜9世紀初にかけて編纂された、わが国現存最古の仏教説話集『日本霊異記』も、仏教的先進国である中国や朝鮮に対し、日本にも仏教の論理である因果応報が作用していることを示す意味がありました。第一話から最終話までがほぼ時代順に並んでいる点などから、これは説話によって日本仏教史を編纂しようとしたものではないかともいわれています。どちらも強烈な国家意識、自土意識を持ち、その表現として歴史叙述という形式を採っているのです。