『古事記』において、オホクニヌシがアマテラスに国を譲ったという部分は、他民族による侵略としか思えません。我々日本人は、侵略を行った側の子孫ということになるのでしょうか。

歴史上、日本列島が外来民族によって占領・支配されるに至ったことは、第二次世界大戦の敗戦によるアメリカ軍の占領しか確認されていません。そもそも日本列島に暮らす人々自体、長い年月をかけて南方や北方から流入してきた人々の、交渉・融合によって成り立っているのです。縄文時代弥生時代の境目にしても、縄文人に対する弥生人の侵略によって截然と分かたれるわけではなく、その平和的交渉を通じて、次第に社会や経済、文化のあり方が変質してきたことが分かっています。また、神話は歴史を記憶する装置であることもありますが、この講義で紹介しているように、(とくに王権や国家に関わるものは)支配者の正統性・正当性を証すために新しく創出されることもあります。神話を史実と結びつけるのには、慎重な配慮がが必要です。