オホクニヌシが地上の支配者となるまでのエピソードは、どのように創られたのですか。
『古事記』には、オホクニヌシにまつわる一大叙事詩が収録されていますが、彼が幾つもの名前をもって記されているエピソード群は、もともと異なる神々の物語であったものを、ひとつに統合したのではないかと考えられています。また、核となるオホナムヂ→オホクニヌシの成長神話は、一度黄泉国へ行った主人公が試練を克服し地上に復帰する冥界訪問譚、〈死と再生〉の物語でもあります。近年では、これを成巫譚と関連づけて読解する見方も出てきています。成巫譚とは、シャーマンが自己の力の覚醒とともに原因不明の病などに冒されるものの、師匠に付いて修練を積むことでそのコントロールを可能にし、シャーマンとなるまでの過程を綴ったライフ・ヒストリーです。オホクニヌシ神話はこの成巫譚と構造上よく似ているので、出雲地域を支配した祭政一致の王の誕生を物語る神話なのではないか、との指摘もあります。