先生は、黄泉国と根の堅洲国は同じものとお考えですか。「スサノヲのいる黄泉国が…」との発言があったので、気になってしまいました。
以前に論文に書いたことがありますので、詳しくはそちらを探してみてください。簡単に述べますと、『古事記』や『日本書紀』のなかには、4〜5世紀頃に紀水門がヤマト王権の外港だった頃、他界として設定されていた紀伊国のイメージと、6世紀以降に難波が外港化してから他界化した出雲のイメージが、混乱したまま残存しているというのがぼくの考えです。前者が「根の国」で、これは『古事記』でオオクニヌシが木国より根国へ移動するように、紀伊の地下に設定されていた他界です。スサノヲは樹木神としての性格も持ち、子息のイタケル3神をはじめ木国・根国と深い関わりを持っています。そして後者が黄泉国で、漢字表記も含め、中国や朝鮮半島の他界観も踏まえ新たに構築された冥界です。当初は木国・根国に関連して語られていたスサノヲも、神話の体系化・再編成に併せ黄泉国と関連づけられるようになったため、出雲とも繋ぎ合わせて語られるようになりました。これを無理に統合しひとつの世界観として分析しようとする視点自体が、超歴史的なものではないかと思います(もちろん、『古事記』の提示する世界といった、文学的な視点の提示は可能だとは思いますが)。