欧米の歴史教育では、過去と現在を連結させ思考させる教育が一般的になされているとのことですが、それは例えばどのような教育でしょうか。

いわゆる思考型の授業です。単に歴史の事象を記憶し、その説明について理解するだけではなく、なぜそのようになったのかを、自分の生きる現代社会に照らして考える、ということがよく行われます。例えば、日本でいえば、それこそ南京大虐殺慰安婦問題のような難しいテーマ。侵略戦争を担っていた人々や、戦場で慰安婦を陵辱していた人々も、平和な社会においてはよき父親であり、兄弟でであり、息子であったはずです。彼らがなぜ、そのような暴力をふるうようになってしまったのか。単に個人個人に同情するのではなく、時代情況や社会情況、軍という組織、戦場の苛酷さ、当時の日本人の中国人や朝鮮人に対する優越感、それを醸成してきた教育やメディアの問題など、さまざまな観点から意見を交換してゆく。指導する教員にも綿密な下準備や能力が要求されますので、非常に大変ですが、生徒の歴史に対する思考力が深まることは確かでしょう。日本では、このような思考し発言するという教育の伝統が、中学段階の人間関係などから急速に失われてゆき、学校ごとにいろいろな試みはあるものの、高校でもなかなかうまく回転してゆきません。よって、大学でいきなり「白熱教室」的な授業をしようと思っても、難しいところがある情況です。