赤い顔の地蔵の話ですが、地蔵を信仰していた老婆のみが助かるという別バーションの話があります。同系統と考えた方がよいですか、それとも後世の勧善懲悪的な改作なのでしょうか。

昨年の特講は、まさにその伝承を扱ったものでした。参考文献にあげた私の論文が、後漢代の『淮南鴻烈解』を初見として中国全土、朝鮮半島、そして日本列島へ広がった伝承が、地域の事情や時代情況によってどう変容してきたかを追跡しています。つまり、信仰の厚い老婆のみが助かるのが古く一般的なバージョン、悪戯をした方が生き残るがイレギュラーで新しいバージョンです。後者は残存しているものが少なく、私も授業で紹介した事例しか発見できていません。サバイバーズ・ギルトの生々しい時期、災害直後の心性のなかから生まれてきた伝承であると考えられます。