疫神自体を饗応するという祭祀のあり方は新鮮でした。これも八百万の神を敬うからでしょうか。

アニミズムの神霊は、概ね人間に対し、守護もすれば災厄も及ぼすという両義性を持っています。祭祀のあり方が、その両極端の反応を分ける。すなわち同じ神格が、守護神にも祟り神にもなるわけです。例えば皇祖神であるアマテラスは、古代では、天皇に対し最も祟りなす神格として知られています。道饗祭などの対象となる疫神がいったい何なのかについては、東アジア的文脈のなかで考えなければなりませんが、日本の古代文化に大きな影響を与えた中国六朝においては、疫病は非業の死をとげた鬼霊のもたらすものでした。かつては大切な存在であった家族が、悪死をしたために鬼霊となり、疫病を伴ってやって来る。道饗祭は宮廷祭祀のなかでは極めて外国の色彩が強いもの、在来の神祇系ではなく陰陽道系と位置づけられるものなので、やはりそうした認識を引きずっているのかもしれません。