言葉で人々に病を引き起こす鬼の姿が伝わっていっても、絵画などで具体的には知られていたのでしょうか。

古代・中世は、現在より、「みえないもの」に対する想像力、信頼性が高かったものと思われます。いわゆる神仏も、像としては存在していたりしますが、その働きは肉眼では捉えられない。けれども確かにある。そもそも日本列島の神祇信仰は、ものごとを生成するムスビのエネルギーを神として讃えるものでした。タカミムスヒが『日本書紀』『古事記』の最高神に据えられているのは、示唆的です。これは、あらゆるものの誕生、生成、成育、成長に、めにみえない力の働きを感じ取ったのでしょう。疫鬼なども同様です。またこうした認識は、「みえる人」の特権化にも結びついてゆきます。よって、説得的な論理を持つ「みえる人」、すなわち僧侶や陰陽師、シャーマンなどが、大きな力を持ちえたのだといえるでしょう。