志怪小説について、当時の人々は収録されているハナシを事実として認識していたのだろうか。もしそうなら、なぜ「小説」と呼ばれたのか。

いわゆる「古小説」というジャンルは、novelの訳語に相当するような近代小説ではなく、世間話や噂話、伝承など広い範囲の物語(ナラティヴ)を意味します。六朝には、主に志怪、志人の2つのカテゴリーがあり、前者は怪異譚、後者は人物の逸話を収録しています。小説は『隋書』経籍志まで史部に分類されており、歴史書の一種とみなされていたことが分かります。国家・王朝を対象とする正史に対して、個人の歴史を意味するものとされたようです。ちなみに、六朝志怪小説の代表ともいうべき『捜神記』は、貴族の清談文化を牽制しつつ、怪異の背景にある歴史の原理を探求しようとしたもので、官僚階層の語り(官僚生活に関わる世間話・官僚たちの祖先をめぐる物語・方術者に関わる話・民衆の生活についての伝聞・少数民族についての伝聞)・士大夫層の家の伝承(一族歴代の見聞・祖先に関する神話)・民衆たちの説話(世間話や言い伝え・民間祠廟をめぐる物語・民間芸能に由来する物語)などから成り立っています。