名を呼ぶことでコントロールできるという思想は、東アジア共通なのでしょうか。

そうですね、東アジアに留まらず、案外世界的に確認できる事例なのではないかと思います。ジェームズ・フレイザーによる呪術の類別に、「類感呪術」と「感染呪術」があります。前者は類似したものはお互いに作用を及ぼすという思考、後者は一度接触したものは分離した後も影響を与えあうとするものです。呪う人物に象った人形などを使用する呪術は前者、対象の爪や頭髪を使用する呪術は後者、ということになります。名前で相手に影響を及ぼそうとするのは、大枠は感染呪術、考え方によっては(名は体を表すなど)類感呪術も無関係ではありませんね。諱を避ける実名敬避俗も、なぜ諱を避けるのか、君主や親に当たる人物しか口にしてはいけないのかを考えると、名前を通じて霊的に支配されることを怖れたからでしょう。『旧約聖書』の「出エジプト記」にも、モーゼの十戒において、神の名(ヤハウェ)を呼ぶことが禁忌とされていますね。