奈良時代、政治の推移に話が終始していますが、当時の大きな変化が庶民にどう影響を与えたか、分かるような史料は残っているのでしょうか。
いわゆる正史のなかにも、政治体制によって翻弄される民衆の姿を捉えることはできます。平城京造営のために徴収された役民が逃亡を図ること、在地でも班田農民が浮浪・逃亡を試みることは、国家的圧迫の強かったことを反映しています。平城京周辺で調を運搬してきた運脚夫が斃死したり、京の内外で活動する行基らに多くの人々が群衆する自体も、同様のものとしてみられるでしょう。まずは、問題意識と視点を明確に持つことで、それによって史料から読みとれる内容も変わってきます。『万葉集』に収録された行路死人歌や防人の歌などからも、かれらの辛苦を想像することは可能でしょう。また、平安初期の仏教説話集『日本霊異記』には、奈良時代に活躍した僧侶たちが説法において駆使した説話類も収められています。民衆の日常生活や生業のあり方、考え方も想定できる内容になっています。