男性は、出産に対してどのような感情を抱いていたのでしょうか。

授業でもお話ししましたが、一般的にいわれるのは「恐怖」ということですね。これはマーガレット・ミードの分析ですが、男性は自らの機能にはない女性の出産能力に畏怖を感じ、だからこそそれを崇めつつ差別してゆく。世界の多くの地域で、女性そのものや月経の血、出産などがケガレと認識されるのもそのためだ、というわけです。こうした説明が、必ずしも普遍的に成り立つものだとは思えませんが、確かに当てはまる部分もあります。ポリネシア地域を中心に、ヴァギナ・デンタータ(歯牙の生えた膣)の神話伝承があり、性交渉を持った男性の生殖器を噛み切る女性性器の恐怖が語り継がれています。出産というより性交渉に対する不安を反映するものなのでしょうが、女性性に対する不信、未知への怯えという点では、同じ心性を伝えるものと考えられるでしょう。あくまで男性の視点から語られるものだ、という点にも注意が必要です。