前近代において、障がいを持つ人々はどのような生活を送っていたのだろうか。

差別と崇拝の両義的扱いをみることができますが、崇拝が一般社会からの疎外を意味するとすれば、やはり差別の構造のなかに位置づけられていたとみられるでしょう。共同体や国家の制度には、もちろんこれらを補助する、現代でいう福祉的な要素も存在しましたが、充分なものではありませんでした。例えば、『日本霊異記』下巻19縁には、いわゆる奇形で生まれてきた女性が、都の高僧をも論破する智慧を備え、信仰の的となってゆく様子が描かれています。しかし、上でも触れているイザナキ・イザナミの神話では、婚姻の儀礼を誤ったために手足の萎えた子供=水蛭子が誕生、水へと流されてしまいます。障がいを持った人々の受けてきた暴力については、やはり看過することはできないでしょう。