平安時代になると、密教が流行してくるのはなぜなのでしょうか。

これは少し難しい問題です。実は密教自体は、奈良時代にもすでに活用されています。しかしその時点での密教は「雑密」といい、真言宗天台宗の「純密」とは違って、瑣末・実践的な呪術や加持祈祷を伝えるのみで、それを根拠付ける壮大な哲学体系を持っていませんでした。それが「純密」になると、独特な世界観や宇宙論に基づく呪術実践として、大部な経典や対応する絢爛たる仏教美術が生まれてきます。平安時代には、自然災害が相次ぎ、平安京における長期停滞によって宮廷社会の人間関係が濃密になる(政治的な事件が続発する)なかで、自分の身や自分の家、一族を守るために、災禍を防ぎ幸福を求める技術が求められてゆきます。そうした時代的・社会的背景のなかで、現世利益の宗教として密教が大きく発展してゆくのでしょう。