聖徳太子は国家的目的のために歪められ、一般常識として定着してしまった珍しいケースですが、国内外問わず、他にもそのような人物はいるでしょうか。 / 聖徳太子だといわれる肖像画も、その存在を確固たるものとするために伝えられてきたのでしょうか。

たくさんいると思います。例えば足利尊氏など、明治国家になってから「逆賊」のイメージを付与され、まったく位置づけが変わってしまった。戦後は回復しましたが、まだマイナスイメージを払拭できないところがあります。戦前/戦後では、史料の解釈の仕方自体がまるで違いますので、史実の歪曲も含めて「一般常識」が180度異なることになります。逆のパターンは、尊氏に敵対した楠木正成でしょうね。肖像画関連でいうと、ぼくらの子供の頃に「足利尊氏像」として教わった肖像画が、現在は高師直像である可能性が高くなっています。源頼朝の基本的イメージをなしていた神護寺の頼朝像も、いまは足利直冬など、異なる人物である可能性が高くなっています。鎌倉仏教の重要な開祖のひとり親鸞が、明治の一時期その実在を否定されていた…といったこともあり、枚挙に遑がありません。シャムの日本人町を拓いた山田長政なども、一時期シャムの王女と結婚するサクセス・ストーリーが喧伝されていましたが、伝説的な記述が多く、その実態については明確に解明されていません。