〈殺された女神〉の神話ですが、日本神話の、スサノオが豊穣神を殺害する話を思い出しました。ハイヌヴェレ神話から採り入れられたのでしょうか?

古事記』のオホゲツヒメ/スサノヲの神話、『日本書紀』のウケモチツクヨミの話は、ご指摘の通り〈殺された女神〉の神話です。ハイヌヴェレ神話から採り入れられたというより、列島のなかで機能していた、栽培植物起源神話、ひいては穀物起源神話の一バージョンなのでしょうね。オホゲツヒメの場合は、殺された後、頭に蚕、目に稲、耳に粟、鼻に小豆、陰部に麦、尻に大豆が化生します。ウケモチの場合は、頭に牛馬、額に粟、眉に蚕、目に稗、腹に稲、陰部に麦・大豆・小豆となっています。ヴェマーレ族の主食のイモの発生を語るハイヌヴェレ神話より、農業的にかなり複雑に進んだ形式の起源神話になっていますが、列島の生業がさまざまに発展するなかで変化を遂げてきたものなのかもしれません。