先生は時折、過去の皇国史観などの歴史観に対して、否定的な立場を取られますが、私は歴史叙述に関しても、パラダイム論が採用されるべきと考えています。過去の歴史観について、現代のパラダイムから評価を下してもよいのでしょうか?

戦前・戦中の皇国史観について、パラダイム論でみることはできません。なぜなら、昭和20年代頃までの認識と現在の認識とでは、パラダイム・シフトが起きるほどの変化はなく、むしろ連続性の方が大きいからです。皇国史観自体も、現時点で種々の形で残存しています。現在、それをひとつの政治的な立場、あるいは宗教的な立場として堅持することは自由ですが、国家主義と一体となって思想を統制し、国民を国策に動員して大きな被害を出した責任は免れません。パラダイム論を安易に持ち出し、過去の過ちを正当化してしまうことの方が、問題が大きいと思われます。