たいていの地域で近親相姦はタブーですが、神話ではなぜ多く語られるのでしょうか。

人類学的理解において、近親相姦のタブーは、女性の交換を実現するためのものとみられています。小集団で移動生活を行っていた時代の人類にとって、同一集団内での交配を繰り返すことは、劣性遺伝のみならず、単純に数量的縮小を招く怖れのある行為でした。それを回避するためには、他の集団から配偶者としての女性を獲得しなければなりません。しかしそれを実現するうえでは、自分の集団からも女性を輩出せねばならず、そのために近親交配を禁止する約束事ができあがったのだというわけです。世界には、日本古代のように近親交配禁忌の緩い地域もありますが、例えば洪水によって滅びた人類が生き残りの兄妹の婚姻から再興されるという神話群は、現生人類の祖を特別な存在とする異常出生譚のレトリックなのかもしれません。あくまで近親交配による出産は特別なもので、通常の結婚の仕方ではないという表象になっているのでしょう。