『一遍聖絵』は、現実の風景を推測を交えずに描いていることが多く、あまり象徴的意味は持っていないように思います。例えば釈迦堂前の雑踏の場面では、恐らくは北條氏の関係の武者の乗る白馬が描かれていますが、尻の辺りには「有」の文字がみえます。これは恐らくは馬に押された烙印で、埼玉県熊谷市の円山遺跡からは、同じ字の馬用烙印が出土しています。白馬は身分の高い武者の乗るものだったようですが、神への供犠にも用いられました。有名なところでは、古代の丹生川上神社では、祈雨の際には黒馬を、止雨を祈願する際には白馬を献上しています。以降、神馬としてはやはり白馬が好まれ、その姿は絵馬のなかにも踏襲されてゆきますね。