弥生時代の社会には、貧富の差を是正しよう、貧しい者へ分け与えようという発想はなかったのでしょうか。
現在も存在する狩猟採集社会においては、富の偏重と権力の発生を抑止しようとする共同体規制が多く存在します。そうした偏りが発生すると共同体内部が不安定になり、生業の完遂などに支障を来すためです。原始社会にも恐らく同様の規制は存在したはずなのですが、なぜか王が誕生し、国家が成立してしまっている。人類学者のピエール・クラストルなどは、これはかつての文明が規則を維持することに失敗した結果だとして、国家を文明の発展段階に位置づける従来説を否定しました。1万年にわたって狩猟採集社会を維持し富の偏重を防いだ縄文時代には、例えば北海道の入江貝塚から、幼少時に小児麻痺に襲われ全身麻痺の状態となりながら、成人に達する頃まで生きた人骨が発見されています。まったく動けないこの人物を、縄文社会は20年近くまで生かしてきたわけです。しかし弥生時代に至り、こうした事例は影を潜めます。まったくなかったわけではないのでしょうが、やはり共同体時代が極めて苛酷な方向へ変容していったのだと考えられます。