歴史学者の間で、なぜ『魏書』がそれほど重要視されていたのでしょうか。

やはり、その時代を記録した唯一の文献史料ですので、重視せざるをえません。また、儒教を重視した近世は漢学が学問において支配的であり、中国正史は歴史学者聖典ともいうべき位置を保っていたのです。近代歴史学は、ドイツの実証主義を採り入れ「科学的歴史学」を志向してゆきますが、その根底には江戸期漢学の清朝考証学がありました。彼らは江戸期一般に支配的であった『平家物語』『太平記』の物語史観を排し、正史や古文書、古記録を史料として位置づけてゆきますが、その流れにおいても中国正史は重視されたのです。