「道成寺縁起」について、土佐光重の画に出てくる清姫は、蛇というより龍のようでした。それは画家の想像なのでしょうか。

当時、神的な威力を持った蛇を描くには、龍の表象を採らざるをえなかったのです。こうした表象の選択によって、中国では皇帝の象徴であった龍も、次第に罪深いものと認識されるようになってゆきます。中国に定着した仏教の世界観では、龍は、東西南北の海を支配する龍王と把握され、仏教に帰依するものとみなされます。しかし一方で畜生でもあることから、神身離脱のところでみたように、罪業を背負ったものとも意識されるのです。日本でも中世以降、各地に多く存在した蛇神が、この龍王イメージで捉えられるようになってゆきました。諏訪大社タケミナカタなども、中世の『神道集』諏訪縁起事では、甲賀三郎が身を変じた龍蛇と位置づけられています。