動植物への後ろめたさを示す説話が中世にはほとんど存在しないなか、地獄十王図の鬼による人体への墨引きに、北條先生が注目しているという話を中澤先生から聞きました。墨引きされているのが女性であるとの説も読みましたが、女性であることの意味は何でしょうか?

聖衆来迎寺の『六道絵』黒縄地獄相幅ですね。表現からすると、恐らく女性ではなかろうと思います。次回、プロジェクターでおみせします。中澤先生ご指摘のように注目はしているのですが、この『六道絵』は、中国の原画をほぼそのまま転用しているところもあるので、果たして列島の古代・中世的感性を表現しているのか不安もあります。しかし、こうした絵画を絵解きして布教に役立てていたとすれば、必ずや墨引きの場面は木材加工の風景を連想させ、草木を「殺害」することへ思い至るはずなのです。その辺りも含めて考えてゆきたいですね。ちなみに、授業でも紹介していますが、中世には動植物への後ろめたさを示す説話が少ないわけではありません。とくに中世後期には、温暖化の進展と開発の高まりに応じて人間と動植物との軋轢が増し、説話や絵画になって多く語られてゆきます。著名な樹魂婚姻譚「三十三間堂棟木由来」なども、この時期に成立します。