友情、愛情などの感性、心性の変質は、どのような史料から分かるのでしょうか。 / 現在のような「友」のいない人間関係が想像できません。

万葉集』や『懐風藻』などから読み解くことができます。例えば『懐風藻』には、漢詩を収める人物の簡単な伝記が収められていますが、友情が成立する当時の重要な記録がみてとれます。それは、天智の皇子であった川島皇子に関する記事で、彼は大津皇子の親友であったものの、その謀反を知って持統天皇に密告した。『懐風藻』の撰者はこの事実に対し、手を尽くすことなく親友を滅ぼした彼の態度に疑問を呈しているわけです。後の時代でいえば、忠義をとるのが友情をとるのか、といった話になりますが、7世紀末にあっては未だ友情の概念が発達していなかったため、川島皇子としては、天皇を頂点とする秩序を維持するのが当然の決断であったといえるのです。