日本は、戦後に至るまでずっと蝦夷を支配下に置こうとしていたが、本来は人種も文化も異なる北海道が独立するという形にはならなかったのでしょうか。

最初のガイダンスの際にお話ししたと思うのですが、中世後期から近世にかけてのアイヌは、ユーラシア北部から北アメリカに至る北方交易圏のなかで大きな富を得ており、国家に展開しうる社会・経済情況に到達していたともいわれています。なぜ国家化しなかったのかは微妙な問題で、南米をフィールドにしていた文化人類学者のピエール・クラストルや東南アジアをフィールドとする歴史学者のジェームズ・スコットによれば、民族社会には権力集中を抑止するシステムがあり、国家化しない選択をする場合がほとんどであるとのことです。西洋近現代を人類発展の必然的帰結とする歴史観のもとでは、国家の誕生もまた必然的進化と捉えられていますが、現状のポストモダン的研究は、そうした通説に異議を唱えています。蝦夷アイヌの問題を考えるためにも、そうした視点が必要と思います。