ナショナル・ヒストリーの一部として教科書があり、国民統合のアイデンティティに大きな影響を与えているとのことですが、それが近隣諸国との間に軋轢を引き起こしていることも事実です。それに対し、歴史学からはどのように批判をすることができますか?

前回の講義でも、今回の講義でもお話ししましたが、歴史学研究がナショナル・ヒストリーという形式自体を批判しています。現在の教科書制度についても、現状を少しでもよくすべくその制度のもとで実践をしながら、問題点の指摘や批判を常に行い、教科書の記述を補うための出版活動も盛んに行っています。また、参考文献でも紹介したように、例えば東アジアにおいては、中国・韓国・日本の市民・研究者の間で、相互に共有しうる公正な歴史を構築するための共同研究が長年行われてきており、その成果もさまざまな形で出版されています。