社会史に関して、「世界をより根本的に規定している日常性」とはどういうことでしょうか。

これまでの歴史学が、国家の変転において重要な事件を主要な対象に叙述してきたのに対し、それら事件を生み出す日常自体に価値を見出すということです。つまり、日常性のなかで、人々が何をどう感じ、考え、行動しているか。それにも時代時代で相違があって、世界を最も基底的に決定づけている。アナールの第2〜3世代の総帥ともいえるフェルナン・ブローデルは、歴史をa)地理的歴史、b)景況、c)事件の三層構造で理解しました。aが自然環境と密着した日常性の歴史(生活史、生業史、一部の心性史・感性史、環境文化史など)で、最も変わりにくく、時間をかけて変化する(長期持続)。bは経済や社会、cは国家や事件の歴史。それぞれ中期持続、短期持続で、cなどはめまぐるしく変化してゆく。これらのうち、根底的かつ長く世界を規定しているのはaであって、bやcはこれを基盤に生成変化している。ゆえに、日常性をこそ重視して解明してゆかねばならないとされたわけです。