私は幼い頃から、歴史教育とは「先人の成功とともに過ちを学び、今後に活かす」ためのものとして教えられてきたが、ときに人々は、歴史を根拠にして平和とは逆の方向へ走ってしまうことがあるように思える。このことを踏まえて、先生の考える「歴史教育の目的」を教えて下さい。
それは、受講生の皆さんひとりひとりに、きちんと考えて、答えを出してもらいたいですね。あなたが考えていることも立派な歴史教育の目的だと思いますが、要するに歴史から教訓を得ようとする現在主義は、過去を現在のために利用する側面が、どうしても強くなってしまう。そこには功利主義があり、それゆえに現代的価値観によって、過去が価値付けされてしまう危険もあります。個人的にはそのあたりを勘案し、歴史教育は、過去を学ぶことで現代を相対化し、より豊かな価値観と多様な判断の基準、選択肢を持ちうるようにするためにあると考えています。それはきっと、自分とは異なる他者を拒絶せず、了解しようと努めること、他者に対する想像力、その苦しみや痛みを共有しようとする力を育むこと、世界の調和と安定に資すると信じています。