『夷酋列像』の左衽ですが、ただ単に書き手の誤りということはないのでしょうか。 / 昔、「アイヌの人は衣服を左前に着ていることがありますが、これはアイヌの伝統です」との文を見た記憶があります。曖昧な記憶ですが、これは書き手が誤った知識を持っていたということでしょうか。

「被髪左衽」は、中国文化においては夷狄表象の最も一般的なものなので、知識人の常識のひとつです。また、蝦夷錦は中国清の官服ですので、すべて右衽で着るようにできており、左衽では着られないものなのです。よって、『夷酋列像』の左衽表現は書き誤りなどではなく、極めて意図的な差別であったと考えられます。また、「左衽がアイヌの伝統」との言説は、上記に基づいて左衽表現が多かったことに基づく誤解でしょう。古写真などの画像資料をみても、左衽、右衽両方の着方があったらしいことが確認できます。現在では、右衽で着用することが多いようです。