移動により新しい環境に遭遇することで脳を活性化させられる、ということは、定住するようになった人類は、移動生活が主要であった頃に比べて劣ってしまっているのでしょうか? 

自然環境に柔軟に適応するという生物学的能力については、恐らくかなり退化してしまっているのではないかと思います。現在のヒトは、自然環境との間に種々の文化を設定し、それを緩衝領域として定着を図っている。季節の移り変わりに伴う服装の変化をみても、人々は気候の動きに直接適応するというより、暑いときの服装、寒いときの服装という文化に適応している。よって、同じ気温・湿度の日があっても、それが冬であるか、春であるかによって服装がずいぶん違ってくる。そういった文化が、定住を通じて発展してきた、ということは事実です。よってテクノロジーの観点からすれば、ふつうに「定住は人を進化させた」といえるかもしれない。しかし、人間の適応を助けるために高度に複雑化したテクノロジーは、それだけ分業化・専門化を極めてきた。よって、例えば寒冷地適応について高度な科学的知識を持つ研究者であっても、衣服を作る技術者であっても、そのどちらの技術もない営業のサラリーマンであっても、みなひとりで寒冷地に放り出されたら、恐らく為す術もなく凍えてしまうと思われます。営業マンはもちろん、衣服を作る技術者も材料となる布や革がなければどうしようもなく、研究者も最先端の道具や機器がなければ何もできないわけですから。