現代は、北朝鮮とアメリカとの関係や、日本国内の政治家の問題など混沌とした世の中になりつつありますが、この現代において「物語り」は、どのように使われるべきとお考えですか。
3回目の授業でも補足的にお話ししましたが、〈物語り〉は、人間の言語行為全般を分析、精査するための概念で、恐らく現在人口に膾炙しているような、フィクション性が強いとか、政治的な色彩が強いとか、恣意性が強いといった要素のみを持つものではありません。こうした捉え方は、虚構・恣意性・主観性・非論理性などの対極として、事実・公正性・客観性・論理性などを仮定していますが、前者の要素が微塵もなく、後者ばかりで構成されている言説は、この世には存在しません。むしろ物語り論は、近代科学自体が内包していた後者的「建前」に隠された前者的なありようを暴き出す、ポストモダン的な潮流のなかで議論されるようになったものです。その意味では、国際情況においても国内情況においても、政治的言説が自らを正当化するためのアピールしかしない現状において、もっとも我々の武器として効果を発揮しうるのが物語り論であろうと思います。