日本国内の花粉による古気温曲線の構築は、どの程度進んでいるのでしょうか? / 花粉を使って気候の変化を考えることは理解できたのですが、花粉をどのようにみつけるのか、花粉は長い間残るものなのかが分かりませんでした。

花粉の分子構造は比較的強固で、種によって特徴ある形態をしており、例えば1万年以上前のものでも、いかなる植物種のものか判別可能です。古気温曲線を構築する場合、あるいは周辺の植生を復原する場合には、長く低湿地の状態にある場所を選ぶのが望ましいとされます。周囲の植物が飛散させた花粉が風などで撹乱されず、ほぼ一所に集積されてゆくからです。比重により淡水と海水の層が形成され、水中の循環が抑えられる汽水湖なども好適です。それらの地層をボーリングしてサンプルを採取すると、毎年異なる量の花粉が降り積もった「年縞」が得られるので、これを最も新しい表面から順に分析してゆき、温帯森林が復活した縄文時代にまで至るという気の長い作業になるわけです。なお、日本列島の低湿地は早くから人間の開発に曝されたため、古気温曲線を描けるほど長期にわたる同一植生が維持されている地域、年縞を得るのに適切な地域は多くは存在しません。尾瀬ヶ原水月湖屋久島の縄文杉などを用いて、放射性炭素同位体による古気温算出も含め、総合的・補足的に行われている段階です。