遠く離れた地域にも同じような形式を持った神話が存在するということは、離れた地域も同じような文化の基盤が存在するということなのでしょうか。

これについては、幾つかの説明の仕方があります。例えばユングのような元型論。人間の真理には、ヒトである限りは共通するひとつの認識パターンがあり、それが共通の神話要素になって現れてくると考えるものです。それと似たものに、環境的な説明があります。類似した自然環境のもとでは、それを資材とした衣食住も似通ったものとなり、思考の道筋や心性のあり方にも共通点が生じてくるという考え方です。古くは和辻哲郎の風土論、梅棹忠夫の文明の生態史観、中尾佐助や佐々木高明の照葉樹林文化論などが挙げられます。もうひとつは伝播論で、異なる地域から異なる地域へ、神話の話型が伝播・定着してゆくという説明の仕方です。現実は、これらの要素が複雑に絡み合い、種々のグラデーションを生み出していると考えられます。