系譜の発生と権力・階級の発生が密接であるということは、階級発生以前は自他や共同体の区別が明確ではなかったということでしょうか。

過去とは異なる物語りで自集団をアイデンティファイすれば、権力・階級の発生を伴わなくても、系譜を持たなくとも、自他の集団を区別することは可能です。実際に歴史を持たず、神話のみを駆使して共同体を構築している民族集団は、世界に数多あります。昨年論文を書いて研究した中国西南少数民族のヤオ族は、犬祖神話としてよく知られるトーテム信仰を持っていながら、政治的・社会的軋轢のなかで遠距離に移動してゆくとき、それらを放棄して新しい始祖神話を作ることもあるようでした。系譜など、「史実」を含むものに縛られていると、こうしたフレキシブルな動きもできません。系譜=歴史の必要性を、一度( )に括ってみることも大切なようです。