ジャポニズムを学習する際にひときわ存在感を放つ浮世絵の、モチーフとして描かれている江戸中の風景は、外国人にとってはまったく馴染みのなかったものだろう。一体何が彼らを惹き付けたのだろうか?

まさに馴染みのないこと自体が、大きな魅力となったのでしょう。好奇心に満ちた人間は、未知なるものに強く惹き付けられるものです。帝国主義のもとにヨーロッパ諸国が植民地を拡大していった段階では、文明の一定の爛熟期を迎え、文学・芸術の分野で閉塞感を抱いていた人々を、それら植民地の「プリミティヴな」文化が解放し、新たな世界観、宇宙観を生み出させていったのです。授業でお話ししたライン=線での描画などはその典型で、ヨーロッパ的描画法の対極にある太古の描き方こそが、画家たちをまるでタイムマシンで「生命の横溢する世界」へ導いていったのでしょう。直接関係はしないかもしれませんが、1978年に日本で大ヒットした動物映画『キタキツネ物語』では、成長した子供たちに親が牙を剥き縄張りから追い出す、「子別れの儀式」がフューチャーされていました。監督の蔵原惟繕は当時の座談会で、過保護や校内暴力が当たり前のようになった現在の日本において、「われわれはもっとプリミティヴなものに立ち返らなければならない」といった趣旨のことを述べています。現在の常識を破壊することで活性化させるプリミティヴな想像力は、現在でも必要とされ、そして作用しているのだと思います。