稲の大東亜共栄圏に関するお話がありましたが、寒冷な気候に耐えうる米を朝鮮半島に伝えることは、同地の食糧事情にポジティヴな影響は与えなかったのでしょうか?

確かに、現在韓国などで生産されている米は、ほとんど陸羽132号から生み出されたものです。その意味では、韓国の食糧生産と食文化に大きな影響を与えたといえるでしょう。見方によっては、それはプラスに作用したといえなくもありません。しかしそうした「評価」の際に注意しておかねばいけないのは、そうした(主にインフラ整備などに関する)「宗主国の恩恵」的言説は、旧帝国がかつての植民地支配を正当化するための常套手段であるということです。あらゆる帝国は、みな植民地の人々のためではなく、その独立自尊のためではなく、自国を富ませ発展させるための搾取を行うために、同地のインフラを整備し資本を投下していったのです。旧植民地側の人が評価するならまだしも、旧帝国側の人間がそれを口にするのは、「強者」「富者」の価値観の押しつけ、暴力以外の何ものでもありません。また食文化的には、その地域環境に根差した多様な産物の収穫もしくは採取されることが、最も望ましいと考えます。日本列島における稲作への過度な依存がすでに歪つであり、それが他の国々へも輸出されたという時点で、ぼくは大いに問題があると考えます。