『日本霊異記』の説話で、長屋王の骨はなぜ土左国に置かれたのでしょうか。

古代律令国家では、遠流の対象国が、伊豆・安房常陸佐渡隠岐・土佐に設定されていました。いずれも島、半島の端、東北地域との境界に当たる部分で、「辺縁部への追放」ということなのでしょう。しかしそのなかでなぜ土佐が選ばれたのかには、少々特別な意味があると思われます。ポイントは紀水門で、この場所は4世紀頃まで、難波が整備される以前の王権の外港でした。当時の境界は物理的な意味以外に、他界との接点という宗教的な意味も内包していましたので、他界も周辺に設定されていたわけです。例えば『古事記』では、地上の紀伊国=木の国の地下には冥界である根の国があると描かれており、上に言及した大祓祝詞でも、罪穢に例えた「木」を伐り出して流す海の先には「根」の国が設定されています。後に難波の向こう側に他界としての出雲=黄泉国が設定されるように、紀伊国周辺にも他界意識が強く存在したのです。『日本霊異記』を編纂した景戒は、その書に多くの紀伊関係の説話を収めていることもり、紀伊国大伴氏の出身と想定されています。彼らにとって水門の向こうにある四国、そして遠流の地である土佐は、代表的な他界として認識されていたのではないでしょうか。長屋王の骨が置かれることになる椒の奥嶋などは、まさに水門から四国に至る水路上に存在するのです。